マンション修繕積立金、その不足のカラクリ
修繕積立金は、マンション区分所有者全員の積立貯金のようなものです。これを原資として将来の大規模修繕工事に備えますが、早ければ2回目、遅くとも3回目となると多くのマンションで修繕積立金が足りないといった事態に陥ります。
もし不足してしまっても所有者各々が数十万~百万円単位で一時金がポンと出せればいいのですが、さまざまなライフステージにある家庭で、全員が足並みそろえて一時金を拠出できるようなケースは稀です。
他にも、管理組合でローンを組んで大規模修繕工事を行い、修繕積立金を引き上げることによってローンの支払いをしていく手もありますが、これもなかなかうまくいきません。当初は毎月5 0 0 0〜1万円程度だった修繕積立金が、返済のためにいきなり3万円に上がるなどというのは、家計の事情によっては受け入れられないでしょう。管理組合の総会で否決されてしまうこともあります。
そうなってしまうと残るは、今ある手元資金でできる修繕だけ行うか、もしくは何もしないという選択肢のみ。
適切な修繕が行われていないと、建物の劣化はどんどん進んでいくでしょう。これから購入しようという人、これからそのマンションを借りようという人にとっても、魅力的とはいえません。資産価値も下がっていきます。
適切な修繕をしておけば本来1 0 0年以上長持ちする建物でも、寿命は一気に短くなってしまうのです。
原因は新築時の修繕積立金の設定にあり
なぜこのような事態になってしまうのでしょうか?
その原因の1つに、新築マンション販売時の修繕積立金設定にあります。新築マンション購入時には「売買価格や諸費用」のほか「住宅ローン利用の場合の毎月返済額」「管理費」「修繕積立金」などが提示されます。購入者からすると、毎月家計から出ていくこれらの金額は少ないに越したことはありません。
住宅ローンについては極力低金利の金融機関やローン商品を探しますが、一方で管理費や修繕積立金については購入者に選択の余地はありません。あらかじめ売り主に提示された額を容認するかどうかとなります。
では、売主としてはどうでしょうか?
売り主の立場からみれば、管理費は極力高めに設定しておきたいと考えます。というのも、ほとんどの新築マンション販売のケースにいおいて、あらかじめ設定されているのは、売り主系列の管理会社です。つまり管理費のうち「管理委託費」は、引き渡し後もグループ会社に毎月流れてくる売上であり、利益なのです。
一方で修繕積立金は、マンション区分所有者で構成する管理組合がプールする貯金です。売り主とは直接関係のないお金です。
購入のハードルを下げるため、積立金を極力低額にして、ローン・管理費・修繕積立金の合計額を下げようというのです。
現実離れした長期修繕計画は、その作り方が原因
修繕積立金は長期修繕計画を根拠に算出されますが、そもそも分譲時の長期修繕計画は、それぞれのマンション用に作られたものではありません。
精度の高い長期修繕計画を立案するためには、工事の具体的なやり方を示す「施工図」が必要ですが、販売時には施工図はまだ作成されていません。
したがって、当初の長期修繕計画は、どのマンションでも使用するひな型をアレンジして使用するのです。
その結果、必要な項目が抜け落ちていたり、負担する必要のない費用が計上されていたりするなど、現実離れした長期修繕計画となっている例が目立ちます。
これまでさくら事務所が見てきた中でも、「機械式駐車場が存在しないのに、修繕費用を計上」「機械式駐車場の設置台数(パレット数)が実際と異なる」「実際より少ないエレベーター設置台数で工事費用を計上」「実際より少ない照明器具台数で工事費用を計上」など、枚挙にいとまがありません。
とりわけ複雑な形状のマンションでは、タイルや吹付部分の面積、鉄部の数量などが異なることが多々あります。
ガイドラインもあくまで目安
国土交通省は「新築マンションの購入予定者に対し、修繕積立金に関する基本的な知識や修繕積立金の額の目安を示し、分譲事業者から提示された修繕積立金の額の水準等についての判断材料を提供する」として、「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」を公表しています。
それによると、建物の階数や規模などによってばらつきがあるものの、15階、5 0 0 0平米未満のマンションで専有面積平米あたり2 1 8円、5 0 0 0〜1万平米で2 0 2円、1万平米以上なら1 7 8円程度を平均的な目安としています。
平米あたり2 0 0円目安なら、例えば70平米のマンションであれば、適正な毎月修繕積立金額は1万4 0 0 0円。
この水準の積立金を入居直後から支払っていれば、おおむね問題ないでしょうというわけです。しかし、ガイドラインはあくまで指針に過ぎず、強制力もありません。
現在でも多くの新築マンション販売現場では、積立金方式は「段階増額積立方式」または「一時金徴収方式」であり、「毎月均等」にしているところはまだ多くありません。
また、そもそもこのガイドラインは、11年に出された指針です。
13年の夏以降、消費増税前の駆け込み受注やオリンピック東京大会の決定、アベノミクス、東北の震災復興特需などと併せ、建設業界の人材不足が生じています。
18年夏時点における分譲マンションの大規模修繕工事の相場は、マンションの規模や形状・構造などによっても異なりますが、概ね20~30%程度上昇していると思われます。
わずか数年の間にこれほどまで価格が高騰するとは、誰にも予測できませんでした。
そして、2011年のこのガイドライン通りに積み立てていたとしても、多くのマンションで今、修繕積立金が不足する可能性があるのです。
積立金不足対策は「積立金の増額」のみ
積立金不足対策は、基本的に積立金の増額しかありません。新築時の修繕積立金では早かれ遅かれ不足は目に見えています。
そうならないために、さくら事務所では竣工後なるべく早い段階で長期修繕計画の見直しを行い、超長期の修繕計画の作成をお勧めしています。
修繕積立金の根拠となる長期修繕計画を、超長期の期間で作成することで、将来的な修繕費用をより実態に近いものとして出すことができるでしょう。
編集:BORDER5編集部
監修:さくら事務所マンション管理コンサルタント(マンション管理士)