防災

「防災」をキーワードに組織をリデザインさせた管理組合の挑戦とは?ー管理状態良好のマンション、エクステ大倉山

最近話題になっているマンションの「2つの老い」に真正面から取り組まれているマンション管理組合が大倉山にあります。そこではマンションの自治会を解散し、新たな組織体を作り上げることで管理組合が一体となって組織運営されています。この先例となる取り組みについてお話を伺ってきました。

BORDER5掲載のきっかけ

エクステ大倉山の管理組合がBORDER5掲載を打診するきっかけは、いまの管理組合の現状、例えば本当に長期修繕計画が問題ないのか、管理費が過剰に高いことはないかなど、実際に第三者の目でしっかり判断してもらった方がいいという判断がありました。

 

そこで、どんな第三者サービスがあるか探しているときに、たまたまさくら事務所長期修繕計画の無料診断を見つけたことが始まりでした。

 

その無料診断の中でBORDER5も紹介され、約150戸規模のマンションでは初回審査時の最高点ということも判明し、今回の掲載に至りました。

自治会を無くす決断へ

いまマンションは「2つの老い」を抱えていると言われ、昨今マスコミでも特集されるケースが増えてきています。エクステ大倉山も例外ではありませんでした。特にマンション自体の「老い」よりも住民の「老い」の方が深刻でした。このような状況の中で問題となってきたのが、自治会の問題でした。

 

「マンション自体の老いよりも、住んでいる住民の老いが圧倒的に早く、ちょうど私が2022年に自治会の会長になったんですが、その時点での自治会加入率が38%まで下がっていました」

 

森さんの自治会長の任期のあいだにさらに4〜5件退会が発生し、自治会の加入率が30%ほどまで低下した状態に陥りました。自治会の加入率がギリギリ30%だと、なかなか地縁代表団体ですとはとても言えない状況になってしまいました。

 

自治会も1期14人の役員で、役員のなり手も40世帯ぐらいしかないとなると、毎年役員を少ない世帯で回すような状態になるため、森さんは自治会を解散することを決めました。自治会の解散自体は行政や地域の連合町会などと協議・調整することで割とすんなりとできました。

 

 ただひとつだけ問題として残っていたのが、防災面の機能でした。

エクステ大倉山には、管理組合理事と自治会メンバからなる防災委員会がありましたが、実質的には自治会側が主体となって防災面の機能を担っていたため、管理組合側にはノウハウが蓄積されておらず、自治会を解散する場合はその代替手段が求められたからでした。

この自治会が担ってきた防災面の機能を管理組合として主体的に実行させるために、エクステ大倉山では新たに「防災共助委員会」を立ち上げました。

 

エクステ大倉山で新たに立ち上げた防災共助委員会では、マンション被災時までの対応マニュアルだけではなく、その後どうやってマンションを立て直すかのマニュアルであったり、これまで自治会機能が担っていた、コミュニケーション機能の部分を「防災」をキーワードにマンション内のコミュニケーションを活性化させることが模索されています。

 

そのなかで今回エクステ大倉山が認定された「よこはま防災力向上マンション認定制度」は、新たに作られた防災共助委員会の活動の目標となりました。

 

「去年から防災共助委員会は管理組合の理事会メンバーが中心になっています。最後に自治会に残っていたメンバーが防災共助委員会のアドバイザーとして残り、2023年から1年間やってきました。これには効果があり、今期から理事は全員防災共助委員会のメンバーにならなければならないと総会で決まりました。さらに前期のメンバーも強制はしないものの1年間残ってもらうようにしました。そこにプラスしてサポートメンバーで旧自治会の中でいろいろ前向きにやっていたり、興味ある人たちが残ってくれる形の大所帯となりました」

 

自治会を解散したという話のインパクトは大きく、周辺の自治会から時々問い合わせがあるということでした。自治会を解散して問題になりそうなこと、たとえば災害時の行政からの情報についても、管理組合として地域防災拠点に参加すれば問題ありませんでした。行政からの案内についても宛先を管理室にすれば問題なかったということで、意外と臨機応変に自治会の解散とそれに伴う代替手段は行政に相談さえすれば用意されているようです。※行政によって判断が分かれる可能性もあり、これはあくまで横浜市の事例となります。

よこはま防災力向上マンション認定制度とツールの活用

「よこはま防災力向上マンション認定制度」

この制度自体は、2009年に大阪市ではじまった「防災力強化マンション認定制度」が、ほかの全国の都市に広まったことがきっかけで横浜では制度が作られました。「よこはま防災力向上マンション認定制度」は2022年2月からスタートしています。

 

この制度では防災対策を実施しているマンションのうち、防災活動などのソフト対策を実施しているマンションを「ソフト認定」、建物全体の対策を実施しているマンションを「ハード認定」としてそれぞれ認定しており、エクステ大倉山のケースでは、地域との連携が図られているマンションとして「ソフト+(プラス)認定」されています。

 

この制度の審査では書類を受理する前に審査があります。横浜市が認定した防災アドバイザーのアドバイスを受けて作成した防災マニュアルほかの書類が審査され、約4ヶ月程度の審査後にエクステ大倉山は認定されました。

 

さらに、エクステ大倉山では、災害が発生したときのために「マンション地震対応箱 MEAS」を導入しています。このサービスは熊本での震災経験の知見を活かして作られ、箱のなかにはさまざまな被災時のアクションカードが収められています。エクステ大倉山では被災時、まず自分の身の安全を守ることが第一になるので、自分の身の安全を確保したうえで集会所にあるこの「マンション地震対応箱 MEAS」を最初に来た人が開けてアクションカードを実行していくそうです。アクションカードには具体的な指示が書かれているので、状況に戸惑うことなく初見の住民でも動いていけるように設計されています。

 

ちなみに、この「マンション地震対応箱 MEAS」を使った防災体制を作ったマンション管理組合は横浜市の第1号だったそうで、いろんなところから最近問い合わせが入るそうです。

エクステ大倉山の今後の課題とは

エクステ大倉山では、防災を軸にさまざまな課題に現在も取り組んでいます。総会に諮る議案のために行う住民へのアンケートも、返答率は高いそうですが、まだメールではなく紙ベースでアンケートが行われているため、マンション管理のIT化も進めていきたいと森さんは語ります。

 

管理会社が実施しているホームページサービスもあるそうですが、機能も限られているため、防災に関する情報を発信したり、一斉メール配信などができるような仕組みを導入していきたいということでした。

 

住民のコミュニケーションも以前は住民のお子さんをキーに集まることも出来ていたものの、「2つの老い」が進行するなかで、「防災」をキーにしたコミュニケーション活性化にもチャレンジしていきたいと言います。

 

他にも多くのマンション同様に悩ましい問題としては駐車場の問題があります。エクステ大倉山には機械式の駐車場があり、この取り扱いについても上手な活用方法はないか模索されています。

 

エクステ大倉山では目の前にあった現実的な問題である自治会の存亡について、なくす決断をされました。そして、自治会を解散することを逆手に取って、「防災」をキーに新たなコミュニケーションの活性化に取り組んでいます。なくす=コミュニケーションの縮小ではなく、新たな代替手段を設けてコミュニティの活性化を模索する動きは、今後さまざまな地域で考えなければいけない課題と言えるでしょう。

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