防災
管理良好マンションが実践する防災のリアルと取り組みのヒント
「マンションでの災害対策、みんなどうしているの?」そんな身近な疑問をお持ちではありませんか?近年、大雨や大きな地震が増加する中、マンションでの防災対策は重要なテーマとなっています。今回は、実際のBORDER5認定の管理良好マンション管理組合から寄せられたアンケート調査の結果をもとに、各マンションのリアルな取り組みや今すぐ参考にできる工夫を分かりやすくご紹介します。
1. 管理良好マンションの防災の現状
近年、毎年のように発生する大型台風や集中豪雨、そしていつ起きてもおかしくない大地震。頑丈な造りのマンションであっても、災害が起きると「停電でエレベーターが止まり高層階へ上れない」「断水でトイレやお風呂が使えない」「浸水によって地下や1階の電気設備が故障する」といった、マンション特有の大きなトラブルに見舞われます。そのため、住んでいる人の命と大切な資産価値を守る戦略的な防災対策が、今まさに求められているのです。
管理良好マンションと一般的なマンションの取り組みには「ソフト面」と「ハード面」の対策が、年々求められ始めています。
マンション管理組合の防災は、「止水板の検討や専門組織の立ち上げなど、素早く行動を起こしている組合」と、「必要性は理解しつつも、標準的な規約の改定にとどまっていたり、毎年の訓練がマンネリ化して効果が見えにくくなっていたりと、具体策になかなか手を出せていない組合」の2パターンに分かれます。
防災に力を入れている先進的な管理組合になると、水害だけ、地震だけといった単一の対策から、地震・火災・風水害(台風や大雨による被害)までを含めた「総合的な防災体制」へシフトし始めています。例えば、高台にあって直接の水害リスクが低いマンションであっても、強風による飛散事故や停電・断水を想定し、自宅で避難生活を送る「在宅避難」を前提とした総合的な計画づくりが進められています。
課題を抱える組合がある一方で、多くのマンションが工夫を重ねています。まずは、すべての基本となる「ハード面(設備・資機材・物資)」の具体的な備えから確認していきましょう。
2. 「万が一」に備えるハード面と設備・備蓄の工夫
災害が発生した直後、住民の命と暮らしを守る確かな基盤となるのが、建物や各種設備といった「ハード面」の備えです。いくら住民の防災意識が高くても、水が入るのを防ぐ止水板や非常用のライトがなければ、被害を防ぐことは困難だからです。
アンケートの回答からは、それぞれのマンションが直面するリスクに合わせて、さまざまな設備や工具を揃えていることが分かります。
・水害・浸水・風害への備え: 大雨で街の排水が追いつかなくなる内水災害(ないすいさいがい)に備えて、水で膨らむ「吸水土のう」や「止水板」の配置・検討が行われています。また、建物の重要部分である電気室への浸水対策、窓サッシ等の耐風・水密性(強風や水漏れに耐える性能)の維持管理、強風時に飛ばされる危険がある共用部備品の固定・撤去ルールの徹底、さらには屋上ドレン(排水口)や雨水桝(うすいます)の定期清掃によって浸水リスクを最小限に抑えています。
・停電・断水への備え: 停電対策としては、ガソリンやガスで動く「非常用発電機」や「ポータブル電源」を配備。断水対策としては、飲料水のストックに加えて、受水槽などから直接水を汲み出せる「非常用給水栓」の設置が進められています。
・閉じ込め・避難生活への備え: エレベーター内に閉じ込められた際に役立つ「防災チェア」の設置や、停電時にも飲料を取り出せる「災害救援ベンダー(救援機能付き自動販売機)」の導入が見られます。さらに、怪我人を運ぶ「階段避難車」や救助工具、衛生用品などを揃え、在宅避難を力強く支えています。
こうしたハード面の設備は、「停電」「断水」「エレベーター閉じ込め」「浸水」といった具体的なピンチに対して直接役立ちます。
しかし、どんなに優れた設備や資機材があっても、いざという時にそれを正しく動かすルールや組織がなければ役に立ちません。次は、ハードを活かすための「ソフト面(規約や組織づくり)」を見ていきましょう。
3. いざという時に動けるソフト面と規約・組織づくり
どれほど高級な発電機や止水板があっても、災害のパニックの中で「誰が止水板を運ぶのか」「誰が使って決裁をするのか」が決まっていなければ宝の持ち腐れです。有事の際に迷わず動けるルールや組織という「ソフト面」の整備こそが、マンション防災の最大の要となります。
アンケート調査からは、緊急時の意思決定を劇的にスピーディーにする画期的な工夫が見つかりました。
最も画期的なのが、「非常時における権限の集中と、即座に使えるお金の準備」です。通常のマンション管理では、何かを決める際に理事会で話し合ったり、総会を開いて決議を取る必要があります。しかし大災害の際、役員が避難先にいて集まれなかったり連絡が途絶えると、決断が遅れて被害が拡大してしまいます。
あるマンションでは、「震度5強以上の地震などで理事会が開けないとき、その場にいるどの理事であっても『災害対策本部長』となり、理事会全権を1人で使える」という規約を定めています。これにより、現場にいる人が即座に判断して動けるだけでなく、後から「1人で勝手なことをした」と責められないよう体を張る役員を守る仕組みになっています。
さらに、総会を開かずに災害対応へ出金できる「約1億円の災害等準備金会計」もあらかじめ用意されており、資金面でも即応できる体制が整えられています。
また、別のマンションでは諮問機関(しもんきかん=単に相談を受けて意見を言うだけの組織)ではなく、自ら決裁して実行できる「防災共助委員会」を設置。「防災細則」や「運営ガイドブック」を作り、日常的に防災対策を進めています。
さらに、全60戸の中から22名の「防災ブロック当番」を2年任期で選出し、防災無線の使い方訓練を実施するなど、実働組織の細やかな整備も行われています。
運用面でも、自治体が発表する河川の氾濫タイムライン(時間経過に伴う防災行動計画)に合わせた避難対応や、玄関ドアに貼る「安否表示シート」を使った全戸無事確認の仕組みなど、混乱を防ぐ工夫が満載です。
意思決定の仕組みが整ったら、次はそれを日常的に動かし、住民みんなの意識を高める取り組みが必要です。続いて、日常の工夫について解説します。
4. 日常から高める防災意識と住民参加の工夫
災害時に隣近所で助け合う「共助(きょうじょ)」のパワーを発揮するには、日頃からの取り組みを通じた住民同士の関わりが欠かせません。防災訓練が単なるお決まりの行事になってしまうと、参加者が減り、いざという時に動けなくなってしまいます。
アンケートからは、住民の関心を引きつけ、自然と行動に変えてもらうための工夫が数多く寄せられました。
・参加したくなる体験と学習: 単なる避難訓練だけでなく、子どもからお年寄りまで関心を持てる「起震車(地震の揺れを体験できる車)体験」や専門家による「防災セミナー」を開催。自治体が主催する地域総合防災訓練へ参加を呼びかける掲示を行うなど、地域と一体となった学習機会を作っています。
・日常のルール周知と管理員の役割: 強風時にベランダの鉢植えを室内へ収めるルールの徹底や、大雨による水漏れを防ぐ排水溝清掃の呼びかけを行っています。また、全戸に配布している住宅用消火器の定期点検や一斉更新を計画的に実施したり、台風通過後に管理員が「自然災害報告書」を作成して被害を記録・改善に活かす取り組みも行われています。
・広報活動とデジタルツールの活用: マンションの公式ホームページで訓練やワークショップの様子を写真付きで公開したり、エントランスなどの「デジタルサイネージ(電子看板)」を活用して防災情報を日常的に発信することで、住民の関心を高めています。
・家庭での「自助」を支える購入補助: 在宅避難を乗り切るため、各家庭での7日分の備蓄を推奨。携帯トイレや保存水などを年1回、割引や購入補助付きで斡旋販売し、個人の備え(自助)をしっかりバックアップしています。
「知る」「体験する」「準備する」という仕組みを作ることで、住民一人ひとりが防災を身近なこととして捉えられるようになります。
次に、こうしたハード・ソフト・日常の工夫を組み合わせて、それぞれのマンションがどのような「独自のスタイル」で取り組んでいるかを整理してみましょう。
5. 各マンションの特色あふれる取り組み事例
マンションの立地、建物の広さ、住んでいる方の年代はそれぞれ異なります。そのため、防災対策の正解もひとつではありません。アンケート結果を分析すると、それぞれの強みを生かした「5つの防災スタイル」に分類できます。
① 有事の権限集中&資金即応スタイル
意思決定と資金動員を最優先
災害時の迅速な意思決定を最優先し、規約改定と専用資金の確保を徹底するスタイルです。緊急時に理事会や総会の開催を待つことなく、必要な対策を実行できる仕組みを重視しています。
代表的な取り組み
– 災害時に1人の理事へ全権を集中できる規約の整備
– 総会決議なしで使用できる「約1億円の災害等準備金会計」の創設
– 災害対応タイムラインに基づく避難対応や、防災ブロック当番制度の導入
ポイント: 災害時に「誰が判断し、どの資金で動くのか」をあらかじめ明確にしておくことが特徴です。
② 専門委員会&規約徹底整備スタイル
専門組織とルール整備を重視
防災に関する実行権限を持つ専門委員会を設置し、マニュアルやガイドブックを細かく整備するスタイルです。管理組合内に専門的な組織を設けることで、防災対策を継続的に推進します。
代表的な取り組み
– 「防災共助委員会」の設置と決裁・実行権限の付与
– 防災細則やガイドブックの制定と継続的な見直し・運用
– 吸水土のうの準備や防災セミナーの開催
ポイント: 防災対策を理事会任せにせず、専門組織が主体的・継続的に進められる仕組みを整えていることが特徴です。
③ 立地特性活用&在宅避難・購入補助スタイル
立地を踏まえ、在宅避難を支える
高台などの立地条件を考慮しながら、住民が災害時にも自宅で生活を継続できるよう支援するスタイルです。共用部分の維持管理に加え、家庭ごとの備蓄や防災対策を後押ししています。
代表的な取り組み
– バルコニー物品の退避や排水溝清掃の日常化
– 安否表示シートや携帯トイレなどの購入補助
– デジタルサイネージを活用した防災情報の発信
– 窓サッシの維持管理や住宅用消火器の一斉更新
ポイント: 建物全体の防災対策と各家庭の備えを組み合わせ、在宅避難を支えることが特徴です。
④ 地域連携&設備導入・基本重視スタイル
地域連携と基本設備を幅広く整える
地域の防災活動に参加しながら、マンション共用部分の防災設備や日常点検・清掃などを着実に整えていくスタイルです。特定の対策に偏らず、設備面と日常管理の両面を幅広くカバーしています。
代表的な取り組み
– エレベーター内への防災チェアや災害救援ベンダーの設置
– 屋上ドレンや雨水桝の清掃、浸水リスクの確認
– 管理員による自然災害報告書の作成
– 地域の防災訓練への参加
ポイント: マンション単独の備えだけでなく、地域とのつながりや共用設備の日常管理を重視していることが特徴です。
⑤ 定期点検・注意喚起の着実実施スタイル
無理なく続ける基本対応
台風接近時の注意喚起や毎年の防災訓練など、日常の管理業務の中で基本的な防災活動を継続するスタイルです。大規模な制度改革や設備投資よりも、既存の仕組みを活用した対応に重点を置いています。
代表的な取り組み
– 台風接近時の注意喚起の貼り紙を掲示
– 標準管理規約に基づいた規約運用
– 毎年の防災訓練の継続
ポイント: 日常業務の延長で取り組みやすい一方、訓練の形骸化を防ぎ、実際の災害時に機能するかを継続的に確認することが重要です。

このように対比してみると、「我が家は意思決定を早くしたいから①を参考にしよう」「まずは掲示板での呼びかけからだから⑤を目指そう」というように、自らのマンションに合った進め方が見えてきます。
最後の章では、これらの事例を参考にしながら、私たちのマンションで明日から始められる「はじめの一歩」の進め方をまとめます。
6. 我が家のマンションで防災の「第一歩」を踏み出すために
他のマンションの素晴らしい事例を見ると、「うちのマンションはそこまでできていない…」「何から手を付ければいいのか分からない」と気が引けてしまうかもしれません。また、「毎年の訓練がルーチン化していて効果があるか分からない」「規約はあるけれど具体的な行動が進んでいない」といったリアルな悩みも寄せられています。
しかし、最初から完璧な組織や高額な設備を導入する必要はありません。効果が実感しにくいマンネリ化した訓練から抜け出し、住民みんなが「やってよかった」と思える小さな成功体験を積み重ねることが大切です。
専門知識がなくても明日から始められる「はじめの3ステップ」をご紹介します。

マンション防災に「これで終わり」というゴールはありません。しかし、日頃のちょっとした呼びかけや準備の積み重ねが、いざという時に自分自身や家族、そしてマンションに住んでいる皆さんの笑顔を守る大きな力になります。
まずは次の理事会や、エレベーター前での立ち話で、「そういえば、うちのマンションの台風対策はどうなっているのか?」と話題にしてみませんか?その一言が、みんなが安心して暮らせるマンションづくりの、温かく輝かしい第一歩になります。
